慢性疾患で継続的に病院にかかっておられる患者さんで、転勤による担当医の交代を経験された方は少なくないと思います。医療にまつわる諸問題が明らかになってきている昨今では病院の担当医が次々に変わる傾向が顕著になってきている印象があります。皮膚科でも例に漏れず、2年で転勤、早いときには1年で交代という場合も少なくありません。
アトピー性皮膚炎に代表される慢性疾患は長期にわたって病歴を把握する主治医が必要不可欠な病気ですが、担当医が次々に変わる状態では患者さんが不安を持ってしまうのは無理のないことですし、きめの細かいオーダーメイドの診療を行うことは大変難しいといえます。
なぜこうも短期間で病院の担当医が次々に変わるのでしょう?その原因は一般の方には理解しにくい「医局人事」という人事システムにあるのです。医師が雇用されているのはもちろん病院なのですが、その人事権を握っているのは各科の教授を頂点とした大学医局であるのが日本の医療界の特徴なのです。病院長が大学に医師を派遣してもらえるようお願いに行かなければならないのが「医局人事」なのです。
最近になって医局人事が崩壊しつつあるという報道が目立つようになってきています。すなわち各病院が大学医局を介さずに医師個人と契約を結ぶというパターンが増えつつあります。しかしながら、皮膚科のような特殊な専門性(スペシャリティー)が必要とされる科では、大学病院をはじめとする大規模でかつ教育システムが充実した研修機関でなければ、専門医の診療レベルを満たす医師の実力養成が難しいという現実があります。皮膚科の場合、「大規模でかつ教育システムが充実した研修機関」は数が限られてきますし、そういう病院は「医局人事」で動いているため、他の科で起こっているような「医局人事の崩壊」は当分起こりそうにないと私は予想しています。となると「担当医が次々に変わる状態」は今後も当分続くことになるでしょう。
アトピー性皮膚炎、慢性痒疹、慢性蕁麻疹、尋常性乾癬、掌蹠膿疱症、天疱瘡、類天疱瘡、膠原病、円形脱毛症など、皮膚科には長期にわたる継続治療が必要な慢性疾患がたくさんあります。このような疾患こそ、病院の名前で医療機関を選ぶのではなく、信頼できる医師で医療機関を選ぶべきではないでしょうか?もちろん、発症時や増悪期に入院が必要になることもあります。そういうときのために病診連携(病院と診療所の連携)の重要性が地域医療の現場において最近盛んに提唱されるようになってきました。私は今まで勤務してきた充実した入院加療が行われる 各病院
と連携できることを誇りに思っています。
医療問題が混迷をきわめる今の世の中、患者さんが「主治医」を自分で選ぶ時代がやってきたのではないでしょうか?