かぜ薬を内服した後に目のまわりが腫れたり、体にじんましんが出たり、また、鼻水、鼻づまり症状や喘息症状が出たことはありませんか?そういう症状がある場合、アスピリン不耐症という病気が考えられます。聞いたことのない病名だと思われる方がほとんどでしょう。今回のコラムはこのアスピリン不耐症のお話です。
アスピリン不耐症には、アスピリン喘息とアスピリン蕁麻疹(※血管性浮腫も含む)が含まれます。ちなみにアスピリン喘息とアスピリン蕁麻疹の合併例はまれであるといわれています。
さてアスピリン不耐症はアスピリンだけに過敏なのかというとそうではないのです。多くの種類の解熱鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)と交差反応を示すため注意が必要です。このためアスピリンが入っていないかぜ薬(解熱鎮痛薬)で症状が出現することがあるのです。アスピリン不耐症=NSAIDs不耐症と認識した方がよいかもしれません。
アスピリン不耐症の診断は専門医でないと難しいものですが、一般の皆さんが自分がこの病気ではないかと疑うときの大きなポイントがあります。それはアスピリン喘息では原因薬物の内服後1時間以内、アスピリン蕁麻疹では数時間以内に症状が出現するという特徴です。ですので前の日飲んだかぜ薬のせいだろうか?というケースではアスピリン不耐症は考えなくてよいのです。
もう一つアスピリン不耐症の特徴に内服量によって症状出現が左右されるということです。すなわち、飲んだ薬の一回量やそのときの体調によって、症状がひどく出たり、症状に気がつかなかったり、するのです。しかし、アスピリン不耐症の診断がついた時点で解熱鎮痛薬の使用を制限するというのが治療方針の基本となります。
1か月以上にわたって頻繁にじんましんが出続ける病気に慢性蕁麻疹がありますが、この原因の多くがアスピリン不耐症によるものであるという説があります。かぜ薬なんて飲まないのに慢性蕁麻疹だという患者さんも多いのですが、その中にもアスピリン不耐症が隠れている可能性があるというのです。不思議ですね。
実は、アスピリン蕁麻疹においては、サリチル酸含有食物や食品添加物(防腐剤・保存料・着色料)との交差反応性が報告されているのです。サリチル酸含有食物の例としては、野菜、果物、菓子類、市販の飲み物、スパイスなどなど実にたくさんのものがありますし、食品添加物の一例としてタートラジン(食品黄色4号)をあげてみますと、漬物、中華麺、カレー粉をはじめとして実に多くの食品にタートラジンが含まれています。これをすべて制限しようとなるととても大変です。アスピリン不耐症の症状出現は内服量に依存するという特徴を踏まえて、サリチル酸含有食物の食べすぎに注意する、食品添加物をできる範囲内で避けていくというのが現実的な方策となります。
また、アスピリン蕁麻疹の症状出現時に治療に使う薬物のなかにも交差反応のために症状を逆に増悪させてしまうこともあります。コハク酸エステル型副腎皮質ステロイドがこの例に該当します。
先程、アスピリン不耐症の診断がついた時点で解熱鎮痛薬の使用を制限するべきであると述べましたが、解熱鎮痛薬を使う頻度というのはかなり高いのでかなり患者さんに不便を強いることになってしまいます。そういう場合は医師の観察下において、交差反応がおこる可能性の低い解熱鎮痛薬から内服テストを行い安全性を確かめるという方法があります。
アスピリン不耐症は症状の出方に個人差があるため、専門医のもとで体質に見合った薬剤の選択、生活指導が必要な疾患です。
※血管性浮腫:蕁麻疹は真皮上層の浮腫ですが血管性浮腫(クインケ浮腫)は真皮深層から皮下組織にかけての浮腫です。口唇や眼瞼(まぶた)が腫れるという症状を呈します。